自宅があるのは千葉市稲毛区だ。
錦糸町から総武線快速で稲毛駅まで来て、そこから小仲台方面に徒歩10分ほどにあるアパートに部屋を借りている。
本木とは何となく気まずいまま別れた。
本木は本木で真剣に心配してくれていたのだろうし、同情的な慰めももらったが、「ウチに来てください」という言葉はついに出なかった。
帰り道のいつものコンビニエンスストアに、惰性で入る。
自動ドアをくぐり、頭痛に似た酔いを覚えつつ、それでも酒売り場の前に立った。
別段酒が好きなわけではないが、このまま寝られる気もしなかった。
冷蔵庫の中にはギッシリと酒の缶が並んでいる。
俺の隣で、今から一緒に飲むのだろう、若いカップルが一緒につまみを買い込んでいる。
女は細くてスタイルが良かった。どう見ても男物のシャツに部屋着風の短パンを履いている。
一方男は170センチで小太りの俺とはまるで違う、背が高く喧嘩も強そうなイケメンだ。
最近流行りの、アルコール度数の高いチューハイを4本買って店を出た。
何か、思い切り叫びたい気分だった。5月の晴れた夜。
だが、俺の心はドロドロした雲で覆われている。
家の方向へ歩き出しながら1本目を開ける。
喉に流し込んだが、ただ刺激があるだけで、うまくもなんともない。
裏道に一本入れば、月以外の明るさはなかった。
その薄暗さが、自分の人生を表している気がした。特別な才能もなければ、恋人もいない、人生の目標すらない。そして俺は今、会社まで辞めようとしているのだ。
「クソ……」
思わず悪態をついた。その声すら弱々しくて、あまりの情けなさに笑いそうになる。
2階建てのアパートは、壁が薄いと有名なウィークリーマンションに毛が生えた程度のものだ。
三角屋根の四角い建物に、階段が外付けされている。
部屋数は12。1階に6戸、2階に6戸、俺の部屋は2階の一番奥だ。
運動不足のせいか、酔いのせいか、あるいは精神的なダメージのせいか、体が重くて階段を登るのに苦労した。
まるで体の中を血ではなくヘドロが流れているような気分。
手すりを掴んで一歩一歩ゆっくり上がっていくと、どこからか声が聞こえた。