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  • 2018/07/24
  • ちょくマガ編集部

愛のギロチン ~Part1「退職の決断」

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俺は何をやっているのだろうか。大貫がいま中にいる診察室の扉を見ながら考える。

タクシーを降りた後、大貫を支えながら病院に入った。

それなりの規模の総合病院だ。確かに足を痛めた老人一人では、指示された窓口に移動するだけでも大変だったろう。

だが、だからと言って俺がついてこなければならない理由はない。

……そうは言っても、既にここまで来てしまっているのだから、何を言っても仕方ないのだが。

10分ほどして扉が開き、大貫が出てきた。
その手には松葉杖があった。病院から借りたのだろう。

おかげで、介助がなくても何とか歩くことができるようだ。

「おう、待たせたな」

おや、と思った。明るい声とは裏腹に、大貫の表情がどこか暗かったからだ。
顔色も悪い気がする。

「じゃ、帰るか」

「あの……足、どうだったんですか」

思わず聞いた。大貫はそのシワの浮いた顔を歪ませて「なんだって?」と言う。

「いや、だから、足。大丈夫だったんですか?」

「阿呆、足じゃない」

「え?」

「足はついでに見てもらっただけだ。ちょっと挫いただけだから、これはスグ治るってよ。俺がここに来たのは、肝臓を見てもらうためだ」

「……肝臓」

そして俺は今更のように、ここが内科のセクションだということに気づく。

大貫はそして小さくため息をつき、言った。

「数値が思ったより悪かった。ついにドクターストップだ。仕事を辞めて休養しろだとよ」

思わずツバを飲み込んだ。ドクターストップ。仕事を、辞める。

「……そんなに悪いんですか」

60代後半、いや、70代か。大貫は老人には違いないが、
それほど深刻な病気を患っているようには見えなかった。

口も悪いし、加えて、人使いも荒い。
もう少し大人しくしてもいいだろうと思うような爺さんなのだ。

「だましだましやってきたんだがな……さすがにもう、毎日職場に行ってフルタイムで働くのは辞めてくれと。徐々にでもいいから休む時間を増やせと言われた」

吐き捨てるように言って大貫は背後の扉を振り返る。

「……簡単に言いやがってよ。そうできねえから続けてるんだっての」

「仕事……何されてるんですか」

俺が聞くと、「ギロチンさ」と大貫は答えた。

「はい?」

「だから、ギロチンだよ。俺はギロチンの設計士だ」

「……」

この期に及んでからかっているのだろうか。俺はそれ以上聞く気にならず、「そうですか」とだけ言った。

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