全3回の短編小説です。過去回は以下よりご覧ください。
愛のギロチン ~Part1「退職の決断」
愛のギロチン ~Part2「採用ってもっと人間的なことじゃないの?」
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作:児玉達郎 |
愛知県出身、千葉県在住。2004年、リクルート系の広告代理店に入社し、主に求人広告の制作マンとしてキャリアをスタート。取材・撮影・企画・デザイン・ライティングまですべて一人で行うという特殊な環境で10数年勤務。求人広告をメインに、Webサイト、パンフレット、名刺、ロゴデザインなど幅広いクリエイティブを担当する。2017年7月フリーランスとしての活動を開始。インディーズ小説家・児玉郎としても活動中(2016年、『輪廻の月』で横溝正史ミステリ大賞最終審査ノミネート、2017年『雌梟の憂鬱』で新潮ミステリー大賞予選通過)。BFI(株式会社ブランドファーマーズ・インク)のスペシャルエージェント。 |
会社に戻ってきた俺は、既に整理済みでガランとした自分のデスクに座り、企画を考え始めた。
どうすれば大貫の後釜が採用できるのか。
途中、有給消化中の俺が社にいることを珍しがった同僚が見に来たりしたが、
俺は話半分にそれをあしらい、ひたすら多賀岡工業のことを考え続けた。
……だが情けないことに、何も思いつかなかった。
求人倍率が軒並み上がっている昨今、企業側から見れば採用難易度はどんどん上がっている。
有名企業や人気職種ならまだしも、今回のような案件では採用どころか応募を集めるのも難しい。
これまで俺がクライアントに提案してきた様々な求人媒体も、本気の採用を想定するとどれも心もとなく見え、
それどころか、採用できないことを前提に高額な掲載料を取り続ける、なにか詐欺のようなものにすら感じられるのだった。
だが、ではどうするのか。
普段使ってきた求人媒体を使わないとして、他にどんな方法が?
考えても考えてもわからなかった。
俺は自分のデスクで頭を抱えた。
どうしてこうなのだ。どうして俺は、こうなのだろう。
何の解決策も思いつかないまま、会社を出た。
電車で錦糸町から稲毛まで。
車両は帰宅のサラリーマンでいっぱいだったが、自分はその誰よりも劣っているのだという気がした。
あと1ヶ月もすれば、サラリーマンですらなくなってしまう。
窓の外を流れる風景をただ見て過ごした。
アパートに戻ると、階段を登り、俯いて早歩きで廊下を進んだ。
だが、途中でやはり足が止まった。
ため息が漏れた。だが、逃げるわけにはいかない。
あの人からは、逃げたくはない。
振り返り、廊下を戻った。
階段に一番近い扉の前で止まる。息を整え、ノックする。
やがて中から大貫が顔を出した。既に戻ってきていたらしい。
俺の顔を見て少し驚いた顔をしたが、「どうしたよ、うかねえ顔して」と笑う。
「……すみません、大貫さん」
「なんだよ、藪から棒に」
「私には無理です」
「……」
「今日ずっと考えていたんですが、どうすればいいのか、どうしてもわからないんです」
もう顔も見ていられなかった。
視線を落とし、それでも足りなくて瞼を固く閉じた。
情けなかった。いや、悔しかった。
気づくと俺は嗚咽を漏らしていた。
悔しくて悔しくて、涙が出てきた。だが、泣くことすらうまくできない。
やがて大貫が言った。
「……ちょっと上がれ」