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  • 2018/08/01
  • ちょくマガ編集部

愛のギロチン ~Part3「自分にしかできない求人とは」

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当然だが、部屋の作りは同じだった。

だが、老人の一人暮らしとはこういうものだろうか。

物が少なく、静かで、寂しげな雰囲気。

大貫は松葉杖を器用に使いながら、俺のために茶を入れ、持ってきてくれる。


俺は呆然としていた。謝ろうと思ったのは確かだ。だが、なぜ泣いたりなんか……



「どうだった、ウチの会社は」

 そう言って俺の向かい側に腰を下ろす。俺は一度大きく深呼吸し、そして言った。


「……とても素敵だと思いました。社長さんもいい人だ。職場を見せてもらって、事業としての将来性も感じました。でも……」


「でも、なんだよ」


「条件面や仕事内容を考えると、採用は難しいと言わざるを得ません」


「……そうか」


「それに、私自身の力不足もあります。やっぱりもっと優秀な営業マンを連れてきて……」




「まあ、落ち着け」

大貫はそう言って俺の言葉を遮ると、茶をゆっくりと飲んだ。

それに促され、俺も同じことをする。熱い、煎茶。

喉から腹がポッとあたたかくなり、体が少しほぐれた感じがする。


「俺にとってあそこは、実家みてえなもんなんだ」

「……実家、ですか」

「前に聞いたよな、家族はいるのかって」

そうだ。確か居酒屋で飲んでいるときだった。


ーーあの時は、「なんでそんなこと言わなきゃなんねんだよ」と怒られた。ーー


「はい」


「……いたよ。昔は女房がいた。でも、死んじまってな」


「え……」


「もう40年近く前の話だ。あるとき具合が悪いってんで病院に連れて行ったら、ガンが見つかった。そこからはあっという間だった。半年も保たず死んだよ」


「……そうだったんですか」


「情けねえが、俺は抜け殻のようになっちまった。子どももいなかったし、両親もとっくにいなかったから、女房は俺の唯一の家族だった。……そんなとき、ズカズカ上がり込んできたのが昭一の親父、八十吉だ」


「あ……多賀岡工業の」


「奴は毎日のように家に押しかけてきて、やいのやいの騒いで……。
あるとき無理やりあいつの会社に連れて行かれて、今日からここがお前の家だ。ウチで働けと言いやがった」


「……」


「……正直、あいつがいなかったら俺はあのまま死んじまってたかもしれない。


だが、多賀岡工業に無理やり入れられて、仕事を覚えさせられて、やがて昭一が生まれて……

そんな頃には俺はまた、人間らしい状態に戻ってた。


それからは多賀岡工業が俺の家になった。

八十吉や、その息子の昭一、それにあそこの従業員たちが、俺の家族になったのさ」


家族。

アットホームな職場、といった表現は求人広告に溢れているが、
こんな風に実感を込めて家族と呼ぶ人もいるのだ。

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